園舎訪問_KIDS_SMILE_LABO_3

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ホンモノを⾒て触って
⾷べて学べる保育園

●KIDS SMILE LABO Nursery(神奈川県)

【PAGE1】本当にビルの中!?こだわりの園舎をご紹介!

【PAGE2】子どもの「やってみたい」を形に。保育のこだわりは?

【PAGE3】大人の「やってみたい」も形に。今後の目標は?

【PAGE2】

大人の「やってみたい」も形に。
今後の目標は?

「KIDS SMILE LABO」という名前は、子どもも大人も失敗したり壁にぶつかりながらも、子どもの笑顔と成長を願いながら、挑戦していく研究所という意味が込められているそう。大人の「やってみたい」を伺いました。

―子どもからだけでなく、保育士の方々からも色々な「やってみたい」という声があるとお話がありましたが、どんなことを考えていますか?

(森)電車に乗って、もっとダイナミックな自然で1日遊び込むという体験は、夏までの目標ですね。座間の谷戸山公園にも行きたいし、大山にも行きたい。日々相模川で遊んでいて、子どもたちも遊び方に慣れてきていると思うので、徐々にフィールドを広げていきたいです。

 

(松下)あと、今年1年目の園ですが、実は年長児が1名いて、その子のやりたいことを叶えてあげたいと思っています。手先が器用でじっくり細かい作業が好きな子なので、小学校で使う雑巾を自分で縫ってみたり、給食の器を作ってくれている陶芸家の方に協力いただいて、自分のお茶碗を作ったり。表現することの幅を広げてあげられたらと思っています。

―素敵ですね。KIDS SMILE LABOは外部への発信も積極的だと思うのですが、その辺りは今後どのように発展させていこうと思っていますか?

(松下)InstagramやYouTubeの更新はもちろん、もっとKIDS SMILE LABOの活動を知ってもらえたらと思っています。KIDS SMILE LABOでは、自然遊びだけでなく、アート活動もとてもダイナミックなんです。日々子どもたちが表現するものを展示する「アート展」や、年長児にカメラを持たせて子ども目線で撮影された写真を展示する「写真展」など、地域に方々も訪れることのできるイベントができたらと思っています。KIDS SMILE LABOの活動をもっと知ってもらい、子育て支援の場にもなることを願っています。

―お2人は色々とこれまで保育の世界で働いてこられたと思うのですが、今の日本の保育はどのように捉えていますか?

(森)ずっと保育の世界で働いてきて、保育士同士の関係性とか働く環境ってとても重要だと思っています。自分のやっていることを他の先生から否定されたり、ひどいことを言われたり…。結構保育園って先生同士の派閥があったりするんです。一緒に良い園を作っていく仲間なのに、傷つけあっている。「もっと子どもに向き合おうよ!」という気持ちになりますね。やっぱり、同じ気持ちで同じ想いで保育をする仲間がいるという環境が大切だと思います。子育て支援としてインスタライブをやっていた時も、そんな悩みをいただいたことがありました。悩んでいる保育士の方にアドバイスをする機会は、今後も作っていきたいと思います。

 

(松下)全般的なことを言えば、体験して感じて自ら学び取るという保育・教育がもっと浸透していってほしいと願っています。自由にやっていいよと言われて何をしていいか、何をしたらいいか分からない子が増えていて、卒園して社会に出て、自分で考えて行動したり生み出していける人間になっていって欲しい。だからこそ、色々な挑戦をして失敗をしながらも成功する喜びを味える色々な体験ができる環境と機会を整えていきたいと思っています。職員の数が足りないことが原因で、大人が指示を出して子どもにやらせる教育をせざるを得ない園もあると思います。それでも、制度的な課題を乗り越えて、子どもの将来に必要な力を育める環境が増えていくことを願っています。

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園舎訪問_KIDS_SMILE_LABO_2

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【PAGE2】子どもの「やってみたい」を形に。保育のこだわりは?

【PAGE3】大人の「やってみたい」も形に。今後の目標は?

【PAGE2】

子どもの「やってみたい」を形に。
保育のこだわりは?

保育園のFacebook(@kidssmilelabo)やInstagram(@kidssmilelabo)を見ると、毎日笑顔いっぱいの子どもたちの様子。
園長の松下さん、副園長の森さんに、保育のこだわりや日常の様子をインタビューしました。

―ようやく開園して1ヶ月が経ちましたが、今の保育の様子をどんな風に捉えていますか?

(松下)まだ園の土台を作っているところ。少しずつ大人も子どもも園内外の環境に慣れてきて、集団らしくなってきたところという感じです。


(森)日々の過ごし方も慣れてきて、皆一生懸命楽しんでやっているという感じですね。でも、逆に1ヶ月でここまでまとまっているのも、皆が同じ方向を向いて、同じ想いで保育をしているからだと思います。

―同じ想いというと?保育で大切にしていることは何ですか?

(森)僕自身も絶対譲れない部分ですが、やっぱり子どもの主体性を大切にしていきたい。ここで働く保育士も皆そこは共通して大切にしている部分だと思います。


(松下)子どもが主役であって、大人はサポーター。この保育観が皆一致していていますね。その上で
、保育士皆があれもこれもやってみよう!とモチベーションが高いからこそ、チームとして上手く機能していて、大人も楽しく保育ができている。だからこそ、子どもたちも「楽しい」って言ってくれるんだと思います。

―子どもたちからの「楽しい」という声は嬉しいですね!
保護者からも何か反応はありましたか?

(森)嬉しいですね。ある保護者が「息子が土日にラボ行きたいって言っていて、子どもがそういってくれるから安心して預けられる」と話をしてくれたことがあります。あとは、前の園ではご飯を食べなかったけど、ここに来て食べている様子を知って、「こんなに早く慣れるとは思わなかった」と言ってくれた保護者の方もいましたね。


(松下)2343 FOODLABO監修の美味しい給食とこの園内の環境、あとは毎日相模川で遊びこんでいることが、そういう言葉に表れているのかなと思います。

―SNSを見ていると、駅前の保育園なのに自然の中で子どもたちがいきいきと遊んでいる様子がありますね。どんな遊びをしているんですか?

(松下)自然の中で色々な体験をしながら育ってほしい、と強く思っています。駅前の保育園で園庭がないからといって、砂利の上に遊具が置かれているだけの変化のない公園に毎日行くのはつまらない。今は園バスがないので、園から歩いて行ける場所で、どこだったら面白い・楽しい保育ができるか、開園前に探して足を運んで、相模川に行きつきました。今は、天気の良い日はほとんど、相模川にお散歩しています。


(森)相模川はフィールドによっていろいろな表情があって、面白いですね。泥んこになれる水たまりができる場所だったり、野花が広がり虫のいる河原だったり、土手だったり、もちろん川に入ってみたり。遊具はないけれど、だからこそ、そこにあるもの全てが遊びの要素・道具になって、遊びは無限に生み出されています。


(松下)もう少し集団としてまとまってきたら、皆でお弁当を持って電車やバスに乗って、もっと大きな自然に出かけて、遊び込むという経験ができたらと思っています。
皆がバギーを使わなくても、相模川まで歩けるようになって、体力がついてきたら、大山にも登りたいと思っています。これは今年の1つの目標ですね。保育士の中で「あれもやりたい」「これもやりたい」とよく話がでていて、1つずつ実現していけたらと思っています。

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園舎訪問_KIDS_SMILE_LABO_1

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ホンモノを⾒て触って
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●KIDS SMILE LABO Nursery(神奈川県)

全国540園の幼児施設設計に携わってきた日比野設計が2021年3月に満を持して作った保育園KIDS SMILE LABO。
園長の松下かおるさん、副園長の森誉さんに、保育園に込めた想いや子どもたちの日常の様子を取材してきました。

 

【PAGE1】本当にビルの中!?こだわりの園舎をご紹介!

【PAGE2】子どもの「やってみたい」を形に。保育のこだわりは?

【PAGE3】大人の「やってみたい」も形に。今後の目標は?

 

まずは、ビルの中なのに、緑豊かで段差やアトリエやライブラリーなど、様々な遊びの仕掛けのあるこだわりの園舎をご紹介します。

【PAGE1】

本当にビルの中!?
こだわりの園舎をご紹介!

園舎設計のコンセプトは、「⼩さな森の研究所―ビルの中に作る⼦どものたちの森」。厚木周辺の自然豊かな環境の要素を室内に取り込んでいます。


園長の松下さんに、9つのポイントを紹介していただきました。

1.自然に身体の使い方を学ぶ「山登りステップ」

(松下)あえて段差を園内の随所に設けることで、遊びの中で自然と体を動かすことができる環境となっています。乳児であっても、自分の足をよく見て、時には背面になって、本当にうまく登り降りしています。一番高いところにあるカウンターでランチを食べる子も、お皿やコップを持ちながら、そーっと段差を登り降りしていて、危なっかしいのですが声をかけながら見守るようにしています。園内にある沢山の段差は、開園前は少し不安な部分でしたが、この段差で怪我をした子は今のところいません。子どもたちを信じて見守ること、大人が危ないからと言って危険物を取り除きすぎないことが、子どもの成長にとって大切なことだと改めて感じています。

2.土と緑に触れることのできる「ビルの中の森」

(松下)保育園内の随所に多種多様な植物を植え、季節に応じて変化のある森のような環境が生まれています。バナナの木、コーヒーの木など、実のなる植物も植えられており、子どもたちの学びや遊びにつながっています。当初は、葉っぱを取ってしまう子もいるかと思っていたのですが、水やりや霧吹きなど、子どもたちも積極的にお手伝いをしてくれていて、大切に扱ってくれています。

3.食への興味を刺激する「森のダイニング」

(松下)子どもたちはここで自分で配膳を行います。給食は1つ上のフロアにある、地元の野菜を中心に健康的なデリを作る「2343 FOODLABO」が監修していて、とても美味しいです。器もホンモノにこだわっています。無垢の木材を使用した「KIDS DESIGN LABO」の机と椅子、波佐見焼のお皿や小鉢、ガラスのコップ、平塚の陶芸家の方にオリジナルで作っていただいているお茶碗など、そういったところからも「物を大切にする」ことが学んでもらえたらと思っています。

4.子ども同士の遊びが広がる「秘密の小道」

(松下)ここは子どもたちの世界が広がる遊びの場です。おもちゃのお皿や野菜なども置いてあるので、ごっこ遊びをして遊んでいます。日当たりもよく、ぽかぽかしているので、心地の良い空間です。横には、プランターがあり、子ども達が育てている野菜やハーブが植えられています。先日2343 FOODLABOの農家の方が種まきを教えに来てくれたのですが、子どもたちは毎日芽が成長していく様子をよく観察しています。

5.思いっきり表現を楽しめる「洞穴アトリエ」

(松下)低い黒板の壁で囲まれたアトリエスペースです。子どもたちは集中しながら、床の汚れを気にすることなく、思いっきり表現を楽しむことができます。上からは、アトリエ内を上から覗くことができ、他の活動をしている子もアート活動に興味をもつことができます。お散歩中に見つけた物や色々な廃材をディスプレイして、もっと子どもたちの創造意欲を刺激していける環境に整えていきたいと思っています。

6.探求心が刺激される「探検家ライブラリー」

(松下)アトリエ横の本棚には、水槽や子どもたちがお散歩で捕まえてきた虫を入れた虫かごも置いています。本棚には魚や虫の図鑑も並べられていて、自分で観察したり調べることができます。園にある絵本は、全てSNSで呼びかけて集まった寄付の絵本。ご家庭で大切にされてきた絵本を、またここでまた大切に使わせていただいてます。

7.電車や街の様子を眺める見晴らしライブラリー

(松下)森の頂上、段差の一番上に登れば、電車や街の様子を眺められるライブラリーカウンターがあります。絵本の読み聞かせの場所としてだけでなく、ランチを食べる場所、電車を眺める場所、駅へ向かうお母さんを見送る場所、心を落ち着かせる場所など、時間や状況に応じて色々な使われ方をしています。

8.遊びは無限大!不思議な「鏡の池」

(松下)反射する池をイメージして作られた空間です。中はトイレブースになっていて、鏡のおかげで保育室内にトイレがあっても圧迫感がありません。先日保育園のTシャツデザインをしてくれているグラフィックデザイナーの小熊千佳子さんが来園してくださり、鏡に絵を描いていただきました。子どもたちは、その絵に気づき、真似をして絵を描いて楽しんでいました。色々な特技を持っている方や専門家の方が来てくださって、子ども刺激を受けていると思います。

9.植物由来の100%天然アロマが香る保育室

(松下)天然アロマの機能を生かしたアロマ空間デザインを提供しているアットアロマ株式会社の協力のもと、保育室内に天然アロマのディフューザーを導入しています。樹木やフルーツやハーブなど、森にいるかのような香りで、子どもの五感を刺激します。今後、福井大学西本雅人研究室主導のもと、保育士のストレスや子どもの睡眠にアロマはどう影響するか、という研究も行う予定で、子ども環境研究の拠点としても発信していけたらと思っています。

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園舎訪問_ds-nursery-その2

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

庭を、室内のすべてを風が吹き抜ける

風車のような園舎

DS Nursery

Ibaraki

大洋と自然と、

みんなと友達になれる園舎ができました。― 中山照仁 先生の思い

2014年に完成したこの新園舎は、近隣にあった旧園舎が築25年を超えて老朽化してきたこと、また、子どもの数が増えてきたことなどから、移転・新築したものです。
元々木造の園舎に興味があったところ、「幼児の城」とシェルター社で行っている木造園舎セミナーに参加して感銘を受け、一方では設計料などの資金面についても細かく説明をいただいて、「幼児の城」への依頼を決めました。
設計過程は、私がコンセプトをある程度お伝えして、幾度かのやりとりの後に基本方針が決定し、細かな部分では私と主任保育士、栄養士などでチームをつくり、形にしていきました。だから皆でつくった園だという意識がとても強いですね。チーム内では、園長だの主任だのといった垣根はなく、皆が言いたいことを言えましたから、設計のご担当者がかえって大変だったかもしれませんが(笑)。
この辺りは太平洋と海に挟まれた独特の地形で、非常に風の強い地域です。そこで、建物を4つのブロックに分けて廊下でつなぎ、それぞれのブロックをかざぐるまの羽根に見立てたようなプランをご提案いただきました。かざぐるまが風を受けてぐるぐる回るように、建物の中を“風の子”である子どもたちが風と一体になって元気に走り回る、そんなイメージです。

旧園舎は2階建てでしたが、新しい園では、広々とした木造の平屋建てを選択しました。木の温かみを感じてほしいのはもちろん、実は2階建て以上の建物は、保育士たちにとって身体的な負担もあるんですよね。大きな問題にはならなくとも、腰痛が持病という保育士さんは少なくはないんです。スタッフにとっても働きやすい園であってほしいですから。
 私たちの園の保育の理念は「太陽と自然とみんなと友だちになろう」というもの。この園舎は、まず、天井からの採光で一日中自然光を感じられます。最初のうちは、あまりに明るいので「あれ? 照明がついてるのかな?」と思ったくらい(笑)。それから、緑がいっぱいの中庭で自然を身近に感じられる園でもあります。柱や梁など、木を見せるようなつくりですから、常に自然の一部を目にすることができる。そうやって太陽や自然と近づくことで、子どもたちはそれぞれに豊かな心を育み、友だち同士お互いに仲よく遊ぶことができるようになる、そう考えているんです。“風の子”そのもののように元気に走り回る子どもを見ているのはとてもうれしい。
 新しい園舎になってから、ご家族から「月曜日に園に行くのをいやがらなくなった、楽しみにしてくれる」っていう声をいただきました。どんなに理想的な保育をしていても、どうしても「園に行きたくない」という気持ちになることはある。そういうところで園舎が助けてくれているのかもしれないなと、実感しているところです。

「自然と出てくる子どもたちの笑顔が何よりうれしい」と中山照仁理事長/園長。

DS Nursery

定員:130名
構造:木造
階数:地上1階建

もっと詳しく知りたい方は書籍で!

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園舎訪問_ds-nursery-その1

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

庭を、室内のすべてを風が吹き抜ける

風車のような園舎

DS Nursery

Ibaraki

犬吠埼にもほど近い、関東の東端。
日本有数の風力発電量を誇るエリアに建つ園舎は、

一年を通して吹く風を効果的に利用した園舎です。

茨城県の東南の端、太平洋へ突き出した場所にある神栖市。国内最大級の洋上発電が建設されるなど、一年を通して風の強いエリアです。周辺に田畑が広がる敷地に建つ〈土合舎利保育園〉では、この風を効果的に利用したプランを考えました。廊下はぐるりと一周して全体がつながるロの字型として、この周囲に保育室や遊戯室などの各部屋を配置。風を受けて回るかざぐるまのようなイメージです。さらに各部屋や廊下には、内外へとつながるように大きな窓を設けたほか、ハイサイドライトによって自然光を取り入れるつくりとしました。ふんだんに入ってくる自然の風と光が、エアコンなどの機械に頼らない、居心地のよい環境をつくり出しています。建物は、横に長い木造の平屋建て。建物の外周に低く深い庇が設けてあり、ここが保育室の延長線上にある半屋外のスペースとしても使われています。さらに、屋内のどこにいても見える中庭にも気を配りました。春夏秋冬どの季節にも実や花をつけた木があるような植栽計画としたうえで、デッキや踏み石、ベンチなど子どもたちの遊びのきっかけとなるような仕掛けをさまざまに用意しています。風と光、移り変わる四季とを楽しめる園舎です。

廊下から数段上がった場所のダイニングルーム。デッキテラスを通じて庭につながっている。室内と屋外のはざまのような空間。

ダイニングルームからは中庭へ向けて深い庇とデッキが張り出し、自然と一体となる環境で食事ができる。

大きさの違う窓を通じて、廊下から中庭へとアクセスできる。小さな段差や飛び出し部分も子どもたちの動きのきっかけになる

こちらは段差を設けて座れるようにした絵本ルーム。落ち着いた雰囲気で読書に没頭する子どもたち。

園舎訪問_am-and-d1-その3

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

AM Kindergarten and Nursery + D1 Kindergarten and Nursery

園舎建て替えを決断した
若き園長の対談

(左)両園の設計担当をした幼児の城スタッフ鈴木(中)伊藤先生(右)輿水先生

――まずはお二人それぞれの園の背景から教えていただきましょうか。

 

伊藤大介(以下; I) 僕のところは、1956年に祖父が学園を設立し、祖母、父、僕と代替わりしてきました。現在、こども園3園、幼稚園と保育園を各1園運営していて、父が法人の理事長。僕はそのうちひとつの園の園長です。〈第一幼稚園〉自体は1973年に2代目が鉄筋コンクリート2階建てで完成して以来、40年以上を経ての新築でした。
輿水基(以下; K) うちの園は、本来は教会が建てた園ですので、牧師としてここへ来た方が園長を兼任するのが慣例でした。その3人目が僕の父。僕は2015年の春に就任した4人目の園長ということになりますが、僕自身は、教会も園も、二足のわらじが履けるほど甘い世界ではないという気持ちが強く、園に専念しています。

 

――このタイミングでの建て替えにはどんな理由があったのですか? 

 

(I) 旧園舎の老朽化もありますが、教育のありようを自分たちで考えていくときに、建物の方がそれを許容しないというのがきっかけになりました。また、この挑戦を世に問うことで、この園を含めた世界中の子どもの環境自体がよりよくなっていくといいなという気持ちがありました。
(K) うちは正直なところ、安心こども基金を利用できたのが大きかったですね。幼稚園だけで運営していたときには、存続すら危ういような状況でしたから。なんであれ(旧園舎)を使い倒すのかなって思っていたんです。
鈴木渉太(以下; S) お二人とも方向性は違うものの、園舎に対するビジョンがしっかりとあるのが、何よりありがたかったですね。

――「幼児の城」との定例会議はどうでしたか?  

 

(K) うちは僕と、理事長である父もいて、それぞれに求めるものや信念が違ったりするから定例が毎回夜遅くまで続く。晩ごはんを食べながらになるのが通例でした(笑)
(I) 難題もありましたが、夢やアイデアを話していると時間があっという間でした。尊敬し信頼し合うパートナーといった関係ですね。全員がプロとして、共通の明確な目標に向かって総力でつくりあげたという思いです。  

 

――お二人とも、いわば“家業”である園を継がれたわけです。それまでの歴史を背負って、新しく園をつくっていくことの難しさは感じますか?  

 

(K) 園舎の新築を機に、園長が父から僕に代わり、父は理事長になったんです。これまでも現場では僕が頭でしたから、本人同士では大したことと考えていなかったのですが、いざ本当に交替するとなると、やはり大きなことなんですよね。父にどのように関わってもらうか、自分はどんな立ち位置でいればいいのか、まだジレンマを抱えているというのは否めないです。
(I) 僕が園長を務めている園の先代園長は、58年間勤務してきた祖母でした。それを継ぐのだから、周囲も僕も不安になるのは当然だと思います。でも、祖父にも祖母にも父にも自分にも、いいところがあって、自分なりにはできることもあるのではないかと思ってます。園長は代替わりしましたが、僕にとっては最高の相談相手。本当に恵まれていると思います。「この先生のこういうところがすごい!」と見つけ合って、それぞれのいいところを発揮して、助け合い、全員で成長していけるといいのかなと思っています。
(K) 僕は幼児施設が家業だと思ったことはないのですけど、父が理想としていることは昔も今も変わっていませんから、やっぱり僕も、そういうような思いの上には立っているはず。だから、新しい園舎ができたことで、それをより具体的な実践の方向に持っていければという思いはあります。  

――園舎への希望はどんなものだったのでしょうか?

  
 (S) 僕らは普段から、建築というハードは、園の思想つまりソフトと連携しなくてはならないと言っているのですが、この2園はそれがとても顕著に出たと思います。それぞれにかなり特徴的ですが、お二人の園ではごく当然の帰結だった。思想の部分がないと、おそらくは単に教室が必要な数だけ並んでいるような建築になるんです。
(K) 鈴木さんと話を重ねていくなかで見えてきたことも多かったんです。うちは階段の脇に滑り台があったり、0・1・2歳の保育室が階段の上にあったり、死角も多かったり……と、とことん使いにくいように見えるかもしれない。でも、大人が意味を理解して危険ならばケアしたり、不都合があっても少しだけ我慢したり、あるいは逆にそれを利用したりすれば、こんなに子どもにとって楽しい場所になるんだというのが想像できたんですよね。
(I) うちは生活を始めてから決めていく園舎を目指したんです。今はオープンスクールに近い形で使いたいように見えるでしょうが、型にはめるのではなく、別にクローズでもかまわない。みんなの夢や創造力やどんな未来をも受け入れてくれるような園舎にしたかった。建物の完成が園の完成ではなく、生活する人たちが考え、つくるものだから。教育を実践検証するなかで必要なことがあればそれを許容してくれる建物がよかった。だから、5年後、10年後にどんな進化をしているのか楽しみで仕方ありません。
(K) それは僕も思います。園長になり、園舎を使い始めて、見えてきたことや、やりたいことがどんどん出てきた。上手く運営すれば保護者や地域の方にとっても交流の場になるだろうというのもそのひとつ。力を試されているようでもあるけれど、楽しみです。

AM Kindergarten and Nursery

定員:90名
構造:鉄骨造
階数:地上2階建

D1 Kindergarten and Nursery

定員:310名
構造:鉄骨造
階数:地上2階建

もっと詳しく知りたい方は書籍で!

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園舎訪問_am-and-d1-その2

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

AM Kindergarten and Nursery + D1 Kindergarten and Nursery

幼児教育をさらに発展させていくため、新世代がリーダーとして考えていくこと。

今度は鹿児島の園舎を見ていきます

舳先に十字架を立てた船を思わせる特徴的な外観。この大屋根の下にダイニングルームがある。

中間階の下に生まれたピロティ部分に、地形や雲梯を据えつけ、変化に富んだ遊び場とした。

階段に併設された滑り台。園内にはワクワクする仕掛けがたくさん。

階段下などを利用したアナグラのようなスペースが子どもたちの遊び場として使われている。

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園舎訪問_am-and-d1-その1

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

幼児教育をさらに発展させていくため、

新世代のリーダーが考えていくこと

AM Kindergarten and Nursery + D1 Kindergarten

Kagoshima + Kumamoto

共に親世代から園の運営を引き継ぎ、2015年に園舎を新築した熊本県〈D1 Kindergarten and Nursery〉の伊藤大介先生と鹿児島県〈AM Kindergarten and Nursery〉の輿水基先生。お互いの園を訪問し、若い世代ならではの決意や悩みを語り合いました。まずは熊本の園舎から見てみます。

吹き抜けになったピロティは子どもたちの遊び場。屋根も開閉できるが、雨が降るとできる水たまりでの水遊びも楽しい。。

お昼ごはんの時間。外周をガラスサッシで囲んでおり、フルオープンに。半屋外のような心地よさのほか、換気の面でも効率的。

バルコニーは大人がゆったりとすれ違える幅。これが建物の外周をぐるりと巡っている。

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園舎訪問_HK-Kindergarten-and-Nursery-その3

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

HK Kindergarten and Nursery

” It is children who need experience of genuine things “

子どものための場所こそ、本物であることが大切だと思います。

「明るい! ちょっと固定観念をひっくり返すような空間ね」そう言ってスザンヌさんが立ち止まったのは2階にある子どもたちのトイレ。建物の南西側、太陽の降り注ぐテラスにむけて大きな窓のあるトイレは、自然の光も風も入ってくる気持ちのいい空間です。従来北側に置かれることの多かったトイレを、積極的に南側の自然光の入る場所に配置するのは、「幼児の城」が多くの園で提案してきたこと。明るく開放的な空間とすることで子どもたちが行くのが楽しい場所になるのはもとより、紫外線による滅菌作用も期待されるのです。

さらにスザンヌさんが、階段脇につくられた小部屋へと入っていきます。ロフト形式で隠れ家のようなここは子どもたちの遊び場。床の一部がガラス張りになっていて下を通る人が見えたり、カウンターがついていてお店屋さんごっこができたり、遊び心いっぱいの空間です。こういった子どもサイズの空間は、運用者側の立場だけから見れば死角かもしれません。でも子どもたちが自由に遊びを発明したり、少し身を隠して落ち着いた時間を過ごせたりするこういった場は、幼児施設を豊かにしてくれるのではないでしょうか。「幼児の城」が手がける園舎の多くで、階段下などのちょっとしたスペースを利用して、こういった遊び場を設けているのはそんな理由からです。

「子どもたちの顔が本当に生き生きとしていて幸せそう。かつ、自立心があると感じます。日本の幼児教育のレベルの高さ、それを建築が助けていることを実感しますね」

スザンヌさんがオーナーを務める園があるオランダやドイツでも、少子化が進む社会状況は日本と同じ。幼児施設をめぐる状況に疑問を持ったことから、園を始めたのだといいます。

「子どもを寝かせるときに、ケージつきのベッドに入れることが法律で決まっていたりするんです。鳥かごみたいでとても我慢ができなかった」

子どもたちにさまざまな経験をしてほしいという思いから、スザンヌさんの園には、大人用さながらのシアタールームやP Cルーム、レストランなどが設けられているといいます。

「最近ではテイクアウトできるデリをつけて、お迎えに来た保護者の方がおかずを買っていけるようにもしています。働きながら子育てする人々の大変さはヨーロッパも同じ。単なる幼児施設だけに留まらない、子育てが楽しくなるような場所だといいですよね」

さてスザンヌさん、初めて見た日本の幼児施設はどうですか?

「セキュリティの問題、建築の安全面の問題など、特に先進国ならば、幼児施設はどこも似通った課題を抱えていると思います。私は多くの国で幼児施設を見てきましたが、ここを見て、日本の幼児施設はソフトとハードの両面で群を抜いているなと感じました。

HZ Kindergarten and Nursery

定員:120名
構造:鉄筋コンクリート造
階数:地上2階建

もっと詳しく知りたい方は書籍より!

園舎訪問_HK-Kindergarten-and-Nursery-その2

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

HK Kindergarten and Nursery

「せーの、こんにちはー!」

きらきらした目をした子どもたちの、とびきり元気な声が響きます。青々とした芝生の広がる園庭に面したスタジオ。園の見学に訪れるオランダからのお客様、スザンヌ・ヴァン・ラヴェンスウェイさんに出会うのを、子どもたちはしばらく前から心待ちにしていたのだそう。エントランス脇の靴箱を囲む黒板壁に描かれた「ようこそスザンヌ!」の文字などからは、スタッフぐるみの歓迎ムードも伝わってきます。

園に一歩足を踏み入れるなり、「とても和やかで、家庭的な雰囲気ね」とスザンヌさん。日本の幼児施設を見るのはこれが初めて。物怖じせずになついてくる子どもたちの様子に、自然と笑みがこぼれます。

スザンヌさんは、オランダ・アムステルダムを拠点に、オランダで8園の幼児施設を運営するオーナー。そのうちの1園である〈ヴィラ・ヴォンデル託児所〉を、海外視察に出かけた「幼児の城」のメンバーが訪れたのが縁となり、現在、オランダでの新たなプロジェクトの設計を「幼児の城」に依頼しているのです。今回の旅は、「幼児の城」で手がける幼児施設の世界観を知ってもらうためのもの。「幼児の城」が子どものための建物や空間で目指すのはどんなものなのかを共有するために、設計のご依頼を受ける際には、ほとんどすべてのオーナーにお願いしていることでもあります。

「ご用意ができました。どうぞ!」

アトリエで夢中になって創作する子どもたち

スタジオとは廊下を挟んで向き合うかたちに配置された、ガラス張りの職員室から興味深そうに辺りを見ていたスザンヌさんのところへ、子どもたちのかわいいお迎えがやってきました。歓迎の気持ちを現すために、年長のクラスの子どもたちがダンスを練習してくれたのだそう。スザンヌさんがスタジオの真ん中に座ったところで音楽がかかると、ドドドドドと子どもたちが走り込んできて、ダンスを2曲披露してくれました。

「元気いっぱいね! この広々とした空間でも足りないくらいに見える」

全力の歓迎を受けて、どんどん表情がほぐれていくスザンヌさん。では一緒に園を一周してみましょうか。1階は、園庭側から順に、目一杯に体を動かせるスタジオ、絵画や工作などの創作活動を行うアトリエ、中庭、ダイニングルーム、テラスまでが、段差なくつながっていくつくり。最長で80 mに及ぶ大空間が確保されています。ここから階段を上がった2階が、保育室や絵本コーナーなどからなる、よりプライベートな空間。各部屋の扉は完全に開放できて廊下へとつながるため、ここでも空間の一体感が損なわれることはありません。

幼児施設では敬遠されがちな石も使っており足に心地いい。

2階の廊下の突き当たりは、園庭側へと張り出したバルコニーになっている。“花ブロック”とも呼ばれる穴の空いたコンクリートブロックは、沖縄に固有の建材。台風の飛来物などから建物を守り、かつ強すぎる日差しを弱めてくれるが、外の様子はよく見える。廊下からひとつながりになった半屋外の空間。

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園舎訪問_HK Kindergarten-and-Nursery-その1

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笑顔がいっぱいの園舎づくり

海外の目に映る日本の園の建築と教育

それぞれの力

HK Kindergarten and Nursery

Okinawa,Miyako-jima

南国の地、宮古島の気候風土に呼応する建物のなかで、はつらつとした子どもたちと職員が過ごす〈HK Kindergarten and Nursery〉をオランダの幼稚園施設オーナーが訪ねました。海外の目が見出した日本の園の魅力とは?

広々としたスタジオでスザンヌさんの「歓迎会」のために練習していたダンスを披露する子どもたち。

新城久恵園長とスザンヌさん。2階から園庭へ直接つながる外階段で。

エントランス入り口の家型の入り口は靴箱。黒板壁で覆われている。

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園舎訪問_あすなろ幼稚園 その2

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愛される園舎のつくりかた

学校法人 あすなろ学園

園庭、中庭、お遊戯室、

トンネル……。

遊べる場所がいくらでも

見つかるね。

 保育室への出入り口でもある中庭側のサッシは、全て開け放つことが可能です。したがって、サッシを開けると、庇の張り出した半屋外の廊下を介して、青々とした芝生の茂る中庭と室内がつながります。保育室同士も中庭を介して向かいあいますから、どこにいても人の気配を感じられるつくりです。

 さらにこの中庭には、園庭側から階段を上り、建物の中のトンネルをくぐり抜けて2階部分から下りてくるすべり台や、園舎の屋上へと折れ曲がりながらつながる大階段も設けられています。行き止まりのない外廊下をぐるぐるとかけっこしたり、建物の中を抜けるトンネルから職員室の先生に手を振って、すべり台を下ったり。大人仕様の階段も、ただ上り下りするだけではなく、釣り糸を垂らして“ごっこ”遊びをしたりと、じつに独創的に使いこなしているようです。「大階段は危ないんじゃないか、と思う方もいるかもしれない。でも、開園以来事故は一件もありません。自分の身体能力に合わせて、少しずつ学んでいくんですよ」。

 外壁は金属サイディングのシルバー、内装は主に木。子どもっぽいカラフルさはあえて排除しているにも関わらず、子どもたちの創造力が、豊かに園を彩っているようです。

左/中庭側の出口がこのすべり台。子どもたちは小さな探検をするような気分で遊んでいるようです。右/40年以上前からここで運営してきた〈あすなろ幼稚園〉。シンボルである三角屋根を、園児用のエントランスに用いました。

園庭には既成の遊具に混じって手づくりの遊具も置かれています。急な傾斜を駆けのぼったり、好きなお絵描きをしたり。自分たちで遊び方を発明して楽しんでいるようです。

約10m四方、天井の高さは5.1mと広々とした遊戯室。オープンキッチンは皆が集うきっかけにもなります。右側が中庭、左が園庭。

理事長の坂本佳一先生と、奥様で職員の坂本まさよ先生。

学校法人 あすなろ学園

あすなろ幼稚園

所在地:静岡県浜松市南区遠州浜1-10-2
構造:木造
階数:地上2階建

愛される園舎のつくり方[幼児の城6] 

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園舎訪問_あすなろ幼稚園 その1

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愛される園舎のつくりかた

学校法人 あすなろ学園

あすなろ幼稚園

静岡県浜松市

20年後も健やかな

身体をつくる園舎

タタタタ、ドドドドド!

〈あすなろ幼稚園〉の子どもたちはとにかく元気。ものすごい勢いで園内を走り回ります。みんな体操着で裸足。「子どもたちには10年、20年後にも健やかな身体であってほしい。その基礎をつくる時期ですから、楽しみながら身体を動かせる環境が大切なんです」と、坂本佳一理事長。その言葉を裏づけるような、子どもたちの自発的な動きや遊びを誘発する建物を目指しました。

南側に防風林、北側では公園に接する抜けのいい敷地に建てられた園舎は、中庭を囲んだ“ロ”の字型の木造平屋建て。保育室はロの字の3辺に中庭に面して配されており、もう1辺が大きな遊戯室と職員室、その外側に園庭という構成です。裸足で過ごす子どもたちのため、床には無垢材のフローリングを張りました。

園庭側から見た園舎。階段は建物の2階部分をくぐり抜けるトンネルを通じて、中庭へ出るすべり台につながっています。向かって左側が保護者や職員用のエントランス、右側は遊戯室。

全景。中庭の周囲を一周する外廊下、すべり台、折れ曲がっていく階段と屋上と、子どもたちが走り回れる場所が園舎を構成していきます。

中庭に設けられた大階段を上るとたどり着くのが、建物の屋上を使った小さな遊び場。年長になるにつれ、階段の上り下りや、屋上でのかけっこがどんどん早くなっていくそうです。

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